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わかやま新報女性面 (月一回金曜日)記事を発信-NPO法人「和歌山コミュニティ情報研究所」の女性スタッフが取材・編集を担当


by mako0491

うつくしい心 10.12

義弟からの贈り物

結婚後暫くして法事があった。夫の実家に集まった大勢の親類の中にガールフレンドを連れた義叔父の姿があった。婚約者でない女性を連れてくるなんて---二人に向けられた親族の目は冷やかだった。

読経が終わり会食の準備で場が騒ついている中、ふとみると奥まった小部屋で一番下の義弟が彼女の雨に濡れたコートをドライヤーで乾かしている。誰も見ていない、誰にも賞賛されることのない行為である。その瞬間、私は義弟の弟子になった。

義弟は幼い頃の高熱で知能の発達が遅れ、言葉も少し不自由だ。友人たちに奢って、と言われると家族の結婚記念の品さえ持ち出し質に入れたこともあるそうだが、それは義弟の孤独を表しているように思えた。金銭も宝石も彼にとっては何の意味も持たない。

四十を過ぎた頃から糖尿病を抱えた義弟は合併症の手術を重ね、片目の視力も失った。年に一度帰省すると、彼はシャツを捲り手術痕を見せてくれる。そして医療費の足しにと渡した金銭は「お年玉に」と私たちの二人の息子に贈られる。

義弟は料理が上手い。職も転々としたようだが、三年前に会った時は数年来勤めているレストランでも料理ができない状態であった。職を辞すという義弟をオーナーは引き留めた。皿洗いができなくなったら皆の監督をしてくれればよい、と言って。

美しい心を持った人は往々にして人の間に埋もれている。けれどもそのような人々の美しさに家族以外の方が気づいてくださる…。

足を切断することになるかもしれないという入院前夜、「平安だ」といった義弟は何と祝福された人だろう。彼自身にそれを知って貰いたい。そのために私は何ができるだろう。

     (マリア 堺)


by mako0491 | 2018-10-16 14:52 | 女の視点