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わかやま新報女性面 (月一回金曜日)記事を発信-NPO法人「和歌山コミュニティ情報研究所」の女性スタッフが取材・編集を担当


by mako0491

ミステリー

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 魍魎の匣
  京極 夏彦著 
 

 講談社ノベルス 1200円 
 1995年

 楠本頼子は柚木加菜子が好きだった。加菜子はクラスの誰よりも聡明で、気高く、美しく、一人だけ違う匂いを発していた。まるでけものの中に一人だけ人が混じっているようだった。

 そんな彼女がクラスの中で唯一自分だけと親しく接してくれることが、たまらなく嬉しかった。そんな二人が親交を深めたある日、湖を見に行こうと出かけた駅のプラットホームで、何者かに突き落とされた柚木加菜子は重傷を負い、美馬坂近代医学研究所に運ばれる。
 
 それと並行するように「武蔵野連続バラバラ殺人事件」と「穢れ封じ御筥様事件」が起こる。一見、なんの繋がりもない事件が最後に繋がり、事件の全貌が明らかになる。

  京極夏彦の著作を最初に見たときの衝撃は今も鮮明に覚えている。おどろおどろしい「百鬼夜行」の絵のカバーが鮮烈で、読んだ中身も鮮烈で、あーこの人は言霊使いだと思った。大長編が好きなわたしも読みこなすのに時間を要した。
 
 主人公の京極堂(中善寺秋彦)は古書店を営む憑き物落とし。捜査をしないで事件を観るアホ探偵榎木津、ゲタ顔の熱血刑事の木場修、欝(うつ)を患う作家関口などレギュラー出演者に限らず、一人ひとりのキャラがもの凄くよく書けている。
 
 各人のセリフも良く、特に京極堂の「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君」。これはデビュー作の「姑獲鳥の夏」で吐かれたセリフだが、わたしはこのセリフが大好きです。
 そして先にも触れたが、縦糸と横糸が絡み合うように張られた伏線が、収束に向かいその伏線の解明に齟齬(そご)がなく完結。見事である。
 
 「魍魎の匣(はこ)」と双璧なのが「塗り仏の宴」で、この作品以上に絡み合った展開を描いている。
 頭の硬いわたしは、一読では不明な箇所が多く、「姑獲鳥の夏」「魍魎の匣」「塗り仏の宴」は三度読みました。でもまだ全てが解っていない。
 
 ちなみに「獲鳥の夏」と「魍魎の匣」は映画化されましたが、ヒットはしなかった。「魍魎の匣」は是非とも観たかったのだが、行ける日にはもう終わっていた。DVDになってから観た。感想は、あれだけの膨大な小説を映画化するのは無理だと痛感。原作には勝てない。
     
                                   (阪井 俊夫)
by mako0491 | 2012-08-21 11:57 | ミステリーの愉しみ